【経営リスク】ベテラン社員の突然の病気。企業が今すぐ取り組むべき「両立支援」のリアルと境界線

「もし、会社の中心メンバーである40代の社員から『がんが見つかった』と告げられたら、企業としてどう対応しますか?」

人手不足が深刻化する現代において、これは決して他人事ではありません。
日本人の2人に1人が生涯でがんに罹患する時代、その発症ピークは40代〜60代の「働く世代」です。まさに企業の中核を担うベテラン層と完全に一致しています。

現在、医療の進歩によりがん治療の約8割は「通院」で行われており、「病気=退職」の時代は終わりました。
しかし、現場が「綺麗事」だけで回らないのもまた事実です。

企業が取り組むべき「両立支援」とはなんでしょうか。

1. 離職がもたらす「年間500万円超」の隠れた経営損失

両立支援を「従業員へのボランティア(福祉)」と捉えている企業は少なくありません。しかし、両立支援は企業にとって「経営戦略(リスクマネジメント)」ともなり得るのです。

業務に精通したベテラン社員(年収600万円クラス)が病気を理由に1人離職した場合、企業が被る損失コストはどれくらいになるでしょうか。

  • 直接コスト: 採用広告費や人材紹介手数料、選考にかかる人件費(約150万〜200万円)
  • 間接コスト: 教育・研修の手間、既存メンバーの負担増による残業代、業務遅延による機会損失(約300万〜500万円)

合計すると、年間約500万円〜700万円相当の損失が1人の離職によって発生します。 さらに、国は現在、企業に対して治療と仕事の両立支援を「努力義務」として課しています。適切な対話や配慮を怠って一方的に退職を迫れば、安全配慮義務違反や解雇権の濫用といった深刻な労働トラブルに発展するリスクすら孕んでいるのです。

2. 現場を崩壊させない「配慮」と「譲歩」の境界線

両立支援において企業が最も陥りがちな失敗は、良かれと思った「過剰な特別扱い(シックトラック)」です。

「仕事のことは気にせず休んで」と業務をすべて剥ぎ取ってしまうと、本人の自己効力感を奪い、申し訳なさからの自発的離職を招きます。逆に、周囲の社員に負担を押し付けすぎれば、今度は現場の不満が爆発し、組織の連鎖離職を引き起こします。

これを防ぐためには、企業として「どこまでが配慮(義務)で、どこからが譲歩なのか」の明確な基準が必要です。

① 企業が最大限に「配慮」すべきライン(環境整備)

本人が業務遂行能力を維持している限り、国の方針に則って提供すべき領域です。

  • 時間: 通院のための有給休暇の取得や、フレックスタイムの適用。
  • 物理: 体力低下に伴う、一時的なリモートワークの許可やフロアの変更。
  • 仕組み: 突発的な欠勤に備え、チーム内で代替要員のバックアップ体制をあらかじめ構築しておくこと。

② 双方の合意の上で「譲歩」していくライン(条件変更)

治療の長期化や、客観的な業務遂行能力の低下が見られる場合、面談のうえで変更していく領域です。

  • 職務の変更: 突発的な対応が多い営業職から、定型的な事務職へシフトする。これに伴い、役職手当の不支給や職能給の改定(減額)をルールに基づき合意の上で進めます。
  • 雇用形態の変更: フルタイム勤務が難しい場合、週3日勤務や時短勤務、一時的な時給制への切り替えを、将来の戦力復帰を見据えた復職プランとセットで合意形成します。

3. 両立支援の「限界点」と適切な出口

両立支援の本質は、働けない社員を無理に抱え続けることではありません。打てる配慮を全て出し尽くし、どうしても業務継続が不可能な場合、就業規則に則って「私傷病休職制度」への移行、期間満了時にはやむなく退職もあるかもしれませんが、次は福祉に繋げていくなどの「適切な出口」の知識を持つことで不当解雇などの労務トラブルを防ぐことが出来ます。

結び:未来の自社を守るインフラ作り

経営層や人事が主導して両立支援のインフラを整えることは、「特定の誰かを優遇する」ことではありません。
いつか自分や、自分にとって大切な家族が病気や介護に直面したときに、安心してこの会社で働き続けるための「全員のセーフティネット」を作るということです。

早期からこの仕組みに取り組む企業は、「健康経営優良法人」の認定取得においても大きなアドバンテージとなり、採用市場での企業価値を劇的に高めることができます。

当事務所では、本質的なリスクマネジメントを学ぶ経営層・人事労務向けの3時間研修プログラムをご提供しています。社内の意識改革や制度設計でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

経営層・人事労務向け ”両立支援セミナー”

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